研究者の備えるべき資質とは

 工学系研究科は、グローバルに活躍する高度人材の育成をめざし、様々な努力を続けている。具体的に、複雑な社会問題の解決に際して、専門の異なる人々と連携して問題解決に当たることのできる、深い専門性と高いコミュニケーション能力を有する人材を育てるため、COE、GCOE、リィーディング大学院と新しい取り組みに積極的に参加してきた。これは、研究者の卵を取り巻く環境の整備であり重要であるが、それと同時に、より基本に戻って、研究者の備えるべき資質についても常に考える必要があると感じている。
 総合研究機構の研究者の皆さんには釈迦に説法になることを覚悟して、ここでは、敢えて、研究者が備えるべき資質についての整理を試みたい。
 先ず、研究者としての問題意識は明確かを問いたい。社会的な問題の解決にどれだけの強い思いを抱いているのか。そして、現在の研究テーマ、その将来の発展の中で、自らの研究成果はその社会問題の解決にどう役に立つと説明できるのか。「ところで君の研究の問題意識は何かね」と、博士論文をまとめる時に自問自答したことを思い出すが、最近は、問題意識が明確に伝わってこない研究が増えた気がある。研究テーマが分断化された影響に加えて、社会問題に食らいついていかない「草食系研究者」が増えている危機感を感じる。
 第二に、自分の責任で、リスクを覚悟で物事に挑戦するという気概にあふれているか、を問いたい。未知なるものに挑戦する気概がなければ、研究は進まない。最近、衝撃的であったのは、「最近の若者の男性で女性に関心のない人たちが四割いる」との指摘であった。コミュニケーションが苦手と言われるが、そもそも他人に関心がない人が増えているのかもしれない。本音で物事の本質を語れるために傷を負う努力をしているのかと考えてしまう。
 第三に、自らを変えるために、自らに投資することを実践しているか、を問いたい。人とは違うことを積み上げていかなければ、人とは違う成果を出すことはできないと自分に言い聞かせているか、である。違う分野の人と共同研究するということは、流行ですることではなくて、新たな研究成果を生み出すとともに、違う分野の人たちの研究の方法や結論の導き方を学んで自らを高めていくためのものであってほしい。
 第四に、自分の価値をきちんと客観的に説明できる研究者であってほしい。特定分野を長く研究していれば、その分野で第一人者と呼ばれるようになってはくるが、自分はここに存在価値があるということは、見つめ続けていてほしい。その特徴を伸ばすように自らを育てて、自分らしい社会貢献に結びつけてほしい。
 最後に、自ら好きな研究ができるということに感謝する気持ちを忘れていないか、を問いたい。それぞれかなりの努力をして研究を続けていることは素晴らしいこととして、それとは別に、研究者になりたくてもなれなかった人たちが多く存在することも忘れてはならないことと思う。
 結局、いろいろ並べたが、一人一人の研究者が、自分の尊厳をかけて、社会にどう貢献するかを考えて、自分の研究者としての将来像を描き、その実現に向けて努力していく、ということに尽きる気がする。自分のことは棚に上げて理想を語った感があるが、理想であるだけに、お読みいただいた諸兄が自らを振り返るきっかけになれば、幸いである。
harata

総合研究機構戦略研究部門教授(兼務)
原田 昇

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